相談員通信
‟港町の暮らし”と ‟旅する体験”を提供する宿 湊庵【so-an】(東伊豆町)~小さな港町に若者が集う理由~

伊豆半島東海岸の中央に位置する東伊豆町(ひがしいずちょう)は、人口11,500人ほど。
町内には6つの温泉郷(大川(おおかわ)温泉・北川(ほっかわ)温泉・熱川(あたがわ)温泉・片瀬(かたせ)温泉・白田(しらだ)温泉・稲取(いなとり)温泉)があり、年間80万人以上が宿泊する伊豆屈指の温泉地です。
また、海と山を身近に感じられる自然豊かな環境のため、海と山の幸の宝庫でもあります!特に『稲取キンメ』は、日本一美味しい金目鯛と賞賛されています。わさびやみかん、いちごの栽培も盛んで、ニューサマーオレンジなど様々な柑橘類を一年を通じて堪能できるのも魅力です。
「つるし飾り発祥の地」とされる同町稲取では、毎年1月下旬から3月末日まで『雛のつるし飾りまつり』が開催され、色鮮やかで可愛らしい雛のつるし飾りが人々の目を楽しませてくれます。
そして、天城連山(あまぎれんざん)や伊豆諸島を見渡せる絶景スポットとして注目されている『稲取細野高原』は、秋になるとススキ野原が黄金色に輝き、美しい景色を見せてくれます。
若い世代の移住者が増えている理由
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路地裏にある宿 『湊庵 赤橙 -so-an sekito-』
東伊豆町は2021年、30年振りに転入者が転出者を上回る「社会増」となりました。
特に稲取は、若い世代の移住者や2拠点居住者が増えている地域です。
ーー「友達に誘われて」 「SNSで紹介されていたのを見て」 「テレワーク勤務だから住んでみようかな」
「人が人を呼ぶ、良い連鎖が続いているんです。」
そう話してくれたのは、移住者と地域の橋渡し役を担い、地域活性化に取り組む荒武 優希(あらたけ ゆうき)さんです。
荒武さんは、神奈川県横浜市出身の移住者です。大学院卒業後、東伊豆町地域おこし協力隊の隊員として3年間活動しました。その後、『合同会社so-an』を立ち上げ、宿泊施設や飲食店を経営するほか、空き家改修をしていた学生時代のメンバーと共に運営している『NPOローカルデザインネットワーク』にてワーケーション施設なども運営しています。
悔しい思いがあったから今がある

地域内外の若者がつながる場
荒武さんと東伊豆町との出会いは、建築を学んでいた大学院時代「空き家改修プロジェクト」に参加したことがきっかけです。大学で学んだ知識を注ぎ、公民館の離れを“茶室をテーマにした休憩所”に改修しましたが、「改修後のフォローをしなかったことで地域の人たちには活用されず、とても悔しい思いをしたと同時に地域に関わることの責任の重さを感じた」と荒武さんは言います。
ーー悔しい思いや関わる地域に対しての責任感が芽生えなければ、地域おこし協力隊にはならなかった。
大学院卒業後の2016年に、東伊豆町地域おこし協力隊に着任しました。
隊員1年目。過去の悔しさを糧に、地域の消防団の第6分団の元器具置場だった空き家を地域住民と共に改修。地域住民と話し合いをしながら改修をしたことで、絆が深まりました。
改修後は、シェアキッチンスタジオ 『ダイロクキッチン』 としてオープン。地元の高校生や主婦の開くカフェ、落語会の開催、こども向けパン教室など様々なイベントを定期的に開催し、幅広い世代に親しまれる場所になっています。
協力隊任期中は、「よそ者だからこそ、地元のみなさんが大切にされてきていることを尊重しながら人と人とのつながりを大切にし、地域の方が求めていそうなことや地域課題を探し活動してきた」と荒武さんは言います。
活動を通して信頼を積み上げたことで、地域の方から大切にしてきた空き家を活用してほしいとお願いをされるようにもなりました。
肩の力を抜いて過ごせる場所

地域内外の人たちにとって憩いの場『すみんこ cafe』(週末だけオープン)
“依頼者の思いを丁寧に汲み取りながら次の時代のために必要な用途で活用する”“宿泊客と地域をつないでいくこと”を念頭に、大切な思いが詰まった築50年ほどの空き家をリノベーションし、宿泊業をはじめることになります。
2020年10月、港町の暮らしを体感できる1棟貸しの宿「湊庵 錆御納戸 -so-an sabionand-」がオープン。2022年1月には、泊まれる路地裏カフェ「湊庵 赤橙 -so-an sekito-」がオープンしました。その後、雄大な自然を感じることができる「キャンプ&コテージ -so-an morie-」をオープンさせ、稲取の暮らしを旅する体験ができる拠点が増えていきました。
『湊庵 赤橙 -so-an sekiito- 』で週末だけオープンする『すみんこ cafe』は、荒武さんの妻である悠衣(ゆい)さんが担当し、手作りスイーツなどを提供しています。宿泊客だけではなく、地域内外の人たちにとって憩いの場になっています。
『湊庵 錆御納戸 -so-an sabionand-』と『湊庵 赤橙 -so-an sekito-』の近くには、移住者と地域住民の交流拠点になっている『EAST DOCK(イースト ドック)』があります。会議室やイベントスペース、キッチンもあり、イベントやワークショップが開催されることもあります。施設内には、海を眺めながら作業ができるコワーキングスペースもあるため、首都圏の利用者も多いそう。
港町のど真ん中で宿泊をしながら、先輩移住者とコミュニケーションをとったり、カフェでのんびり過ごしたり。肩の力を抜いて過ごすことができることから、リピーターが増え、地域内外の若者がつながるコミュニティも生まれました。
移住希望者に伝えたいこと

荒武 優希さん『湊庵 赤橙 -so-an seito-』の縁側にて
「移住したいと感じる魅力を作ってきたのは、これまでこの土地を大切にしながら暮らしてきた地域の方々だと思っています。この土地のこれまでの出来事にリスペクトをする、そして、その上で暮らさせてもらっているので、地域に関わっていくことや感謝の思いを持つこと、その思いを地域に還元していくことが大切だと思っています。」
今ここにある全てに感謝の気持ちを持ちながら、この土地に、地域の人たちに向き合ってきたからこそ、得た信頼。そして、荒武さんの持つ穏やかで優しい雰囲気も、人々の心を惹きつけているように感じました。
「観光スポットだけでなく、この町で楽しく暮らしている人たちの姿を見てもらえたらもっとその土地が好きになると思うんですよね」
ふいにこぼれた言葉が、日々の暮らしが充実していることを物語っているようでした。
掲載日:2022年11月28日
この記事について
湊庵-so-an-