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先輩移住者の声

vol.43

地域おこし協力隊として戸田へ。棚田・タチバナ・シキミの地域資源を掘り起こす

掲載日2021年01月29日
沼津市 夢を実現 Iターン 単身
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岐阜県から沼津市へ移住 奥田さん

地域おこし協力隊として戸田へ。棚田・タチバナ・シキミの地域資源を掘り起こす

今から400年以上前、富士宮市北山の集落から来た人々によって作られたという沼津市戸田地区の「北山の棚田」。平成11年に農林水産省により日本の棚田百選に選定されています。近隣には滝があるなど、豊かな自然が訪れる人を魅了する土地。ここから車で10分ほど走ると戸田港もあり、山と海の自然両方を楽しめる場所です。
しかし、近年、担い手不足により棚田の多くが耕作放棄地に。周辺にはタチバナ(橘)やシキミ(樒)といった地域資源もありますが、これもあまり活用されずにいました。
この戸田の地域資源の活用を目指し、地域おこし協力隊として戸田へ移住してきた奥田薫樹さんに戸田の魅力について伺いました。

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戸田への移住のきっかけを教えてください

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子どもの頃は神奈川県で過ごし、千葉県や山形県など、さまざまな土地を転々としてきました。戸田に来る前の2015年から2016年は、岐阜県で地域おこし協力隊として活動。担当していた事業が軌道に乗り、規模が拡大。民間企業に委託することになりました。その地域にとってはよかったことなのですが、地域おこし協力隊として自分で手がける仕事がなくなってしまったので、やむなくその土地を離れることになりました。
大学で園芸を学んでいたので、農業の知識を生かせる地域おこし協力隊の仕事を探していたところ、沼津市で地域おこし協力隊の募集があり、応募。2017年から戸田の地域おこし協力隊として赴任してきました。
実は、母の実家が沼津にあり、里帰り出産だったため、私の生まれは沼津なんです。高校生の頃までは、沼津の狩野川花火大会にもよく来ていました。でも、戸田を訪れたことはなくて…。地域おこし協力隊になって初めて来た場所でした。

地域おこし協力隊として戸田ではどんな活動をしているのですか?

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沼津市からは地域おこし協力隊として、戸田の資源でもある「北山の棚田」の再生と、タチバナの六次産業化、そしてシキミの活性化の3つを任されました。
「北山の棚田」は、美しい景観を持つにも関わらず、大半が耕作放棄地に。2016年には沼津市が有志を募り田植えをしたそうですが、獣害に遭い、収穫量はゼロ。2017年に私が地域おこし協力隊として挑んだ最初の年はコシヒカリ240kgを収穫できましたが、2018年はコシヒカリ60kg、2019年は古代米に挑戦したものの収穫量はゼロ。神奈川や伊豆半島から毎月数人ボランティアの人が手伝いに来てくれるのですが、人の手入れが行き届かないため棚田の間や周辺に木が繁り、イノシシやシカが繁殖。被害が大きく、なかなか思うようにいきませんね…。
タチバナは小さなミカンのような形をした柑橘類。果肉は酸味が強いので生食には向きませんが、皮はユズ以上に香りがよく、加工品として使われます。日本で自生するタチバナは3系統あるそうですが、その中でもヘダタチバナは、ユズやハナユズの親系統でもあり、日本で一番原種に近く、希少性が高いと言われています。これまであまり利用されていなかったのですが、希少な戸田のタチバナを守り、繋いでいくためにも活用が必要です。地域や地元有志とともに「へだたちばなの会」を設立。保護、植樹、栽培、商品化などに取り組んでいます。
タチバナの皮と実を分ける作業は、「道の駅 くるら戸田」内にある「くるらの家」にお願いしています。ここは地元のおばあちゃん達の憩いの場にもなっていているのですが、みなさん、手先が器用で作業が早いんです。こうしてさまざまな人の協力を得て開発されたクラフトビール「タチバナホワイト」は、2019年3月の食品見本市で銅賞を受賞。2019年5月に開発した「こらっサイダー」は沼津市のふるさと納税の返礼品になるなど、伊豆半島を中心に販路も広げ、市外にも積極的にPRしています。
シキミは、仏花としてとても需要がある植物。全国でもトップクラスの生産量を誇ります。棚田の間に植えられているのですが、高齢化が進む地域であるために、担い手が不足しています。農業体験等で市外から人を呼んで摘み取りを行なっていますが、こちらもまだまだ課題が残ります。

今後の活動について教えてください

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地域おこし協力隊の任期は2020年3月まで。終了後は、園芸経験の技術と知識を生かして地域資源活用研究所「AGREL(アグレル)」を開業予定で、引き続き、戸田の地域おこしに協力できたらと考えています。棚田も契約して借りているので、農業も続けていくつもりです。「へだたちばなの会」は次の地域おこし協力隊の方に引き継ぐ予定ですが、引き続き、お手伝いできればと思っています。
戸田はさまざまな資源を持っていますが、担い手不足によりそれを活用することができずにいます。戸田のために何ができるか。それを考えた時、戸田に関係してくれる人、移住してくれる人を探すことが一番だと考えました。
そこで住民の方から古民家を借り、知り合いの手を借りながら可能な限りセルフリフォーム。棚田での農作業、タチバナの摘み取り体験等を行える「農家民宿 奥田」として2019年8月にオープンしました。また、昼間は「棚田のcafé ののはな」として、夜間は「古民家いざけ屋 一石橋」としても営業。住民と観光客の交流拠点の一つになればと考えています。
2019年9月にはもう1軒空き家を借り、ゲストハウスとしてリフォーム中。もともと戸田には空き家が多いので、今後もゲストハウスなどに活用できればと考えています。
2018年には「おためし戸田暮らし」というイベントを行い、こんにゃく作りや地域懇親会を実施。テレビの移住番組で戸田が取り上げられたこともあり、その影響で県外からわざわざ訪れてくれた方も。手応えを感じました。今後も継続してできればと思います。
その他にも、以前、仕事で園芸のネットショッピングである程度の成功を収めた経験があるので、その経験を活かし、タチバナなどの戸田の資源を使ってインターネット展開できたらとも考えています。獣害も多いので、イノシシやシカの肉を使った商品もよいかもしれませんね。

移住を考えている方にアドバイスをお願いします

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戸田は幕末の頃、ロシアのプチャーチン率いるディアナ号が駿河湾で沈没した際、乗組員を助け、造船に尽力したと言います。このことからもわかるように、戸田の住民はとても友好的な気質を持っています。毎年7月に開催される「戸田港まつり」は、ディアナ号慰霊祭や、海上花火大会、パレード等が行われる一大イベント。ロシアや日本から要人の来訪があり、私も2018年と2019年に司会役を担わせていただきました。祭りの準備には、若手も多く集まり、これに参加することで、自然と交流を広げることもできます。
戸田へ地域おこし協力隊として赴任した時、家電をくれたり、いろいろ教えてくれたり、住民の方々が温かく迎えてくれたことが嬉しかったですね。戸田の人たちは、自分たちが田舎に住んでいるという気持ちはあまりないみたいです。高速バスを使えば2時間半で新宿に行けますし、新幹線を使えばもっと早いと思います。意外と首都圏に近いんです。住民と親しくなれば、2DKの間取りが5000円、1万円で借りられることも。住居費をおさえられるので、経済的に暮らすことができます。
戸田はいいものがたくさんありすぎる町。私は、自分の人生だからやりたいことをやろうと考えています。それができる土台が戸田にはあります。戸田の魅力を発信してくれるプレイヤーがもっともっと増えてくれればいいですね。戸田は仕事をいくらでも創出できるところです。模索しながら自分のやりたいことを見つけるのもいいと思いますよ。

  
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