震災の後、自然と調和した生き方を求めて、奥浜名湖へ夫婦で移住

東京都から浜松市へ移住 長谷川乾さん
震災の後、自然と調和した生き方を求めて、奥浜名湖へ夫婦で移住
浜名湖や猪鼻湖(いのはなこ)周辺の美しい湖畔風景は、リゾート気分にさせてくれる絶景ポイントが点在しています。天竜浜名湖鉄道のレトロな雰囲気の駅舎や、歴史の舞台になったような場所も多く、映画やテレビ、CMのロケ地としても利用されています。
広島県出身で、関西方面の大学を出た後、東京のIT企業に就職した長谷川乾さんは、東日本大震災後、静岡県へ避難移住してきました。「生き方を見直し、自然と調和できる暮らしがしたい」と話す長谷川さんは、現在、江戸循環農法「MARU FARM」・農業研修ができるコミュニティ「浜名湖みかんビレッジ」・三ヶ日駅舎内にある「GRANNY’S BURGER&CAFÉ(グラニーズバーガー&カフェ)」と、3つの事業を経営しています。長谷川さんに、最終的な移住地として奥浜名湖の浜松市北区三ヶ日町を選んだ理由や、お仕事について伺いました。

移住することになった経緯について教えてください

東京でIT企業に勤めていた時は本当に忙しくて、会社に住んでいたといってもいいほど家には帰れないような生活をしていました。しかし、東日本大震災後、化学物質過敏症だった妻は体調不良になり、東京では生活できない状況になりました。妻は一時避難するような形で実家があった静岡県磐田市へ帰省。その後、東京の職場へ新幹線で通える場所をと思い、静岡県三島市へ夫婦で引っ越ししました。2年ほど三島市に住みながら生き方を模索。IT企業での仕事はやりがいはありましたが、妻の体のこともあり、自然と調和した生き方をしたいと思うようになりました。そこで行き着いた先が自然栽培で行う農業の仕事でした。
その後、長野県、山梨県、静岡県で移住先を検討。探し始めてから2年が経過した頃、三ヶ日町にあった今の家を見つけました。訪れてみると、家はもちろん、浜名湖の美しいロケーションが見事でひと目惚れ。これまでにアフリカ、中東、南米、北米、ヨーロッパなどを放浪したことがあり、世界中の美しい景色はたくさん観てきました。でも、奥浜名湖の美しさを目にした時、こんなに美しい場所が日本にあったなんてと感動。すぐ契約しました。
こうして2015年に三ヶ日町へ移住。仕事は退職し、2年間ほどはフリーランスのwebコンサルティングの仕事をしながら、新規就農の準備を始めました。
新規就農は大変ではなかったですか?

三島市に住んでいた時、夫婦でライブイベントを何度か企画したことがあったんです。イベント終了後、懇親会を開催し、そこでいろいろな方と出会うことができました。この時の縁で、静岡県伊豆の国市で150坪程度の畑を借り、自然農法で20種類程度の野菜を作っていました。農業の勉強は、単発の農業セミナーに行ったり、インターネットで学んだりした程度。ただ、いざ本格的に農業を仕事とすると、苦労も失敗も多かったですね。
三ヶ日町に移住してからは、やはりイベントを通じて知り合った方の紹介で、自宅にほど近い土地を紹介してもらいました。
三ヶ日町でも、音楽イベントや餅つき、ロケットストーブを作るワークショップ、コンポストトイレを作るワークショップなど、さまざまなイベントを企画。イベント内でカップルが成立するなど、自分たち以外にも様々な波及効果があり、企画してよかったなと日々実感しています。
今のお仕事について教えてください

「MARU FARM」では、江戸循環農法という循環を意識したオリジナル農法を行って野菜を生産しています。畑の広さは全部で5反。里山で手に入る刈り草、落ち葉、ススキ、米ぬか等を活用し、お金をかけずにできることをやっています。年間約50品目(200品種)の野菜を生産し、9割程度はインターネットによる通信販売を行っています。
それから、「浜名湖みかんビレッジ」は、農業研修ができるコミュニティ。自宅は、もともと企業の保養所だった場所で、部屋数があるので、ここを宿泊施設として利用。研修生に農業研修として農業を手伝ってもらう代わりに、泊まるところと食事を提供するという形態をとっています。研修には、日本国内をはじめ、アメリカ、マレーシアなどからも20〜70代の方々が訪れ、期間も2泊3日から4ヶ月と様々。これまでに100人以上は来ていただいたのではないでしょうか。
2018年5月には、三ヶ日駅舎内にある「GRANNY’S BURGER&CAFÉ(グラニーズバーガー&カフェ)」を引き継ぎました。ここは三ヶ日牛を使ったバーガーを提供していたお店で、私はもともと常連客だったんです。前オーナーが辞めることになり、引き留めたところ、「それならあなたがやったら?」と言われたんです。畑が忙しくはあったのですが、お店がなくなるのは寂しかったので、妻と相談。店舗経営への憧れもあり、金曜・土曜・日曜・祝日営業だけならということで引き受けることにしました。こちらは妻が中心に切り盛りしており、私は手伝える時のみ手伝っているという感じです。
これから移住を考えている方へアドバイスをお願いします
私たちは移住フェアのようなイベントには参加しなかったのですが、今思えば行っておけばよかったなと思います。そういったイベントに参加することで、選択肢が広がると思います。
移住して大切だなと思ったのは、移住先に協力してくれる知り合いがいるということです。その点、私はイベントを企画していて、本当によかったなと思います。移住でも農業でも、始める前に先に移住している人、就農している人に会いに行ってみるのが一番。その方が人を繋いでくれますし、不安も減って、移住への心構えもできると思います。できる限り、実際に移住する前にいろいろな方に会えるといいですね。