農業をやってみたくて転職。御前崎市への移住で得られた穏やかな生活

東京都から御前崎市へ移住 木村さんご夫妻
農業をやってみたくて転職。御前崎市への移住で得られた穏やかな生活
サーフィンの聖地として知られる御前崎市は、日本屈指の日照時間の長さを持つ市です。海の幸の他、独特の地形と日照時間、自然条件を生かした多彩な農業が営まれています。北部の台地ではお茶が生産され、特に「つゆひかり」は、御前崎市がブランド化を進めている品種。まろやかな味わいが特徴です。南部では砂地を利用した露地野菜やメロン、イチゴ、トマトといった施設園芸が盛ん。海と畑とビニールハウスが広がるのどかな風景は、心にゆとりをもたらしてくれそうです。
埼玉県出身の木村豊明さんと東京都出身の奥様の杏里さんは、東京の同じIT関連会社に勤めていました。豊明さんが夢だった農業を始めるまでの経緯や、御前崎市へ移住することになったいきさつなどについて、豊明さんからお話を伺いました。

農業をやってみたかったとのことですが、農業に何かしらの縁があったのでしょうか?

農業は全く無縁の世界でした。親類に農業関係者がいるわけでもなく、母がプランターで花を育てていたくらい。私自身もサボテンを育てたことがありますが、それも枯らしてしまうほど、園芸の知識はありませんでした。
でも、自然が大好きで、子どもの頃は池で、大人になってからは伊豆や千葉の海で釣りをしていました。埼玉県には山も海もなかったので、いつか自然が多いところに住みたいなと漠然と思っていたんです。
2017年2月、後に妻となる彼女から「東京で『新・農業人フェア』というイベントがあるみたいだよ」と教えてもらい、参加。そこで縁を得て、3月に千葉県の個人の農家さんのもとへ、1年間、週末のみ研修に通うことになりました。無農薬で年間50品目程度を少量栽培しているところで、無給での仕事。当時、車もなかったので電車で1時間半、駅からさらに歩いて1時間半の距離。翌日は仕事があったので日帰りです。通うのは大変でしたが、それ以上に農業をやりたいという思いが強くなった研修でした。この研修期間中の2017年10月に妻と結婚しました。
移住しようと思ったのはなぜですか?
東京では、毎日満員電車に乗って通い、会社のビルの前でもエレベーターに長蛇の列。東京の満員電車に乗るのは本当に大きなストレスでした。やがて移住を考えるようになり、インターネットを通じて知った東京・有楽町の「ふるさと回帰支援センター」へ移住相談に行き、宮崎県と静岡県を候補としました。2017年3月には実際に宮崎県の移住体験ツアーにも参加。宮崎県もとてもよかったのですが、夫婦それぞれの実家が関東にあることを考えると、何かあった時に帰りやすい距離であることは大事かなと思い、最終的には静岡県を選択しました。
第一次産業専門の求人サイトから、御前崎市で有機農業を行う農業法人を見つけ、2018年8月に御前崎市に初めて訪れました。海と自然に囲まれたのどかな風景、そして農業法人の社長さんの人柄に惹かれ、喜びと期待の気持ちいっぱいで帰宅。仕事を退職し、そのまますぐ御前崎市へ移住してきました。妻は仕事の引継ぎの関係で、1か月遅れで御前崎市に移住し、今は市内のサービス業でパート勤務をしています。
最初の会社で農業から加工品の作り方など様々な経験をさせてもらった後、2019年7月に退職し、今は別の農業法人に勤めています。いつか狩猟免許も取れたらと考えており、いろいろな経験を積み、農業人として成長していきたいですね。
農業をやることに、周囲からの反対はありませんでしたか?

職場からは「仕事を辞めて移住して農業を始める」と話すと、止めてくる人もいました。しかし、東京での生活より、地方でのんびりと農業をという思いが強くなっていました。
妻からは、大きな反対はなかったのですが、条件はありました。実際に体験してすぐ諦めたりしないよう、まずは仕事をしながら農業体験をしてみるということが条件でした。千葉での研修を経て、移住を考え、農業法人へ就職するか独立するかを考えた時、二人でいろいろ調べました。補助金や支援金はあるのか、研修はどうなっているのか、法人に就職した場合と独立した場合のメリット・デメリットなどを検討しました。
独立したいという気持ちもありましたが、知識も経験も資金もない状態での新規就農はなかなか難しいもの。生活や資金計画はいろいろ考えましたね。夫婦一緒に調べ、考えることで、自分たちの進む方向も見出せたのではないかなと思います。
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妻は、東京生まれ東京育ちだったので、東京以外の場所で暮らしたことがありませんでした。しかし、実際、御前崎を訪れてみるととてもよいところで、ショッピングモールもスーパーも図書館もコンビニもある。生活に不自由はなさそうと感じたそうです。
ただ、妻は車の免許を持っていなかったので、こちらに来てから自動車学校へ通いました。静岡県は車社会なので、車がないと不便。東京にいた時は車を所有していなかったので、これは大きな違いだと思います。御前崎は道路も広く、運転しやすいので、妻もすぐ乗れるようになりました。今では一人で運転して、いろいろなところに出かけているようです。行動範囲が広がりましたね。
御前崎のおいしいもの自慢をするならば、干し芋、メロン、イチゴ! 干し芋は無人販売で100円ほど。東京にいた時は干し芋を食べるということ自体なかったことなので、自分でも変わったなと思います。また、御前崎はメロン栽培も盛んで、スーパーで手頃な値段でメロンが買えるんです。これまでメロンと言えば木箱に入った贈答品のイメージしかなく、味もあまり好きではなかったのですが、御前崎のメロンはとても甘く、イメージが変わりました。イチゴも今まであまり買ったことがなかったのですが、道の駅などでは200〜300円ほどでおいしいイチゴが買えるんです。これにも驚きました。
港があるので、海の幸ももちろんおいしいですよ。驚いたのは、スーパーのお寿司もおいしいこと。ネタも大きくて、東京では寿司店で出てくるレベルだと思います。
たくさんの自然に囲まれた御前崎での生活は、東京とは全く異なり、毎日が非日常的です。移住を考える場合は、まず現地に来てみて、その土地の雰囲気を感じるのが大事だと思います。御前崎市に来てから、心に余裕ができるようになりました。満員電車で通勤していた自分が今では信じられないですね。東京では得られない穏やかな暮らしができて、今はとても満足しています。